5類移行も決まり、社会の空気が一変する中で、一般市民のみなさんのこの感染症に対するイメージと、私たち医療機関や高齢者施設との間に価値観の新たな分断が生まれようとしています。2類から5類に変わってもコロナウイルスの特徴は何も変わっていません。オミクロンでは重症化率や死亡率は下がってきましたが、強い伝播力により感染者数は第4波(アルファ波)や第5波(デルタ波)に比べて桁違いに多いため、結果として死亡者数も増加しています。死亡者のほとんどは基礎疾患を有する高齢者です。若い人たちは感染しても無症状か軽症で済んでしまうため「ただの風邪」扱いになってきましたが、私たち医療機関や高齢者施設では院内感染・施設内感染を避けるために相当なプレッシャーがかかっています。特にクラスターの発生は絶対避けなければならない圧力を感じています。皆さんの間では第8波が収束することでコロナは終わったと感じられるかもしれませんが、これからも変異株が出現すると想定されており、私たちは、対コロナ戦略は長期戦になると考えています。あと1年か2年は辛抱が必要でしょう。
「死亡率の低下と死亡者数の増加…これは双方ともにファクトです。」
5類への移行つまり季節性インフルエンザと同じ扱いにすることについて、私たちの間では、感染のレベルをどこまで許容するかの議論になっています。突き詰めると、死亡者の増加をどこまで許容するかという極めて難しい選択を迫られています。社会経済活動に軸足を移せば必ず感染者は増え、結果として死亡者が増えます。それが自分の家族であったとき、受け入れられるでしょうか?この議論が避けられなくなりました。
ゼロコロナ政策に失敗した中国では感染が爆発し国民の8割が感染したことで集団免疫を獲得したとみられますが、死亡者も急増し火葬場に死体搬送車が行列をなす光景が報道されました。アメリカでも墓地が手配できなくなり病院の玄関に冷蔵トラックを横付けし、トレーラーの中に死体を山積みして保管する衝撃的な光景が拡散されました。日本人の国民性はこういう光景を許容できないと思います。私たち国民はどの「プロセス」を選択すべきか自ずと見えてきます。日本では対コロナ戦略に国民が一生懸命協力してくださったおかげで、これまでに新型コロナに感染したことがある人は人口の3割程度にとどまっています。中国やアメリカ国民とは免疫獲得の構造が違うことに留意しなければなりません。これからもコロナに感染する可能性のある人がたくさんいることになります。
マスク着用については、一律的に感染対策を要請するのではなく、個人や組織が自主的に工夫し選択していくことになります。ただすべて個人の責任に帰すると言っても、判断が困難なこともありますから、国は一定の基準を示すべきです。これからはマスクを着用しない局面が増えるでしょう。それは歓迎すべきことです。マスク着用を強制してきたことでコミュニケーションに障害ができてしまった指摘が多くあります。過剰な同調圧力もありました。ただマスクを着用しなくなることで感染者は確実に増加します。私たち医療や介護の現場ではウイルスが持ち込まれてクラスターになることを非常に警戒していますから、当面マスクのない医療・介護の現場は考えられません。そこに大きなギャップが生じることになります。
5類に変えるだけで自動的に感染者や死亡者が急に減ることはありえません。段階的な移行が必要でしょう。